ゆるいオタクの頭の中

主にTwitterで生きてます。 @yuzuru_1101

駆け抜ける人から見送る人への餞の話。

これは、V6から私たちへのお葬式だ。


物心付いた私が初めてハッキリと死に触れたのは、祖父のお葬式だった。
大好きな祖父が眠る棺に白い菊を添えた時、ああ、死んじゃったんだなと感じた。
理屈ではない、脳で得た感覚だった。
当時高校1年生だった。


https://youtu.be/vnZ9uN6uQPw


V6がすごいもんを出してきた。
「2021年11月に解散する」ことを発表したV6。
9月4日の結成日に新しいアルバムがリリースされる。
なんとベストアルバムではなく、全曲新作。ニューアルバム。攻めてる。

この「雨」という楽曲は、ニューアルバムの中の一曲に当たる。
アルバム発売に先駆けて、この曲がYouTubeにフルサイズでアップされたのだ。



早朝5時に解禁されたMVは、V6ファンを大いに騒がせた。

すごい、ヤバイ、芸術的。
死、衝動、映像の考察。
アイドルのMVが発表されて、こんな字面が出るかよ普通。
寝ぼけた頭でそんなことを考えていた。

ここのところ微妙な疲れが溜まり、うっかりすると精神を揺さぶられて再起不能になってしまいそうだった私。
考えることを放棄した。
きっと見てしまえば、考えずにはいられない。
衝動に任せてYouTubeを開いてしまえば、一週間ほど腑抜けになって過ごすことだろう。
定期的にやってくる目眩に任せ、Twitterをろくに見ないまま1日が過ぎた。


本当はもう少し寝かせてから見るつもりだった。
しかしあまりにも、ファンが盛り上がっている。
私の情報収集に差し障る!
由々しき事態だ!

1日ゆっくりと過ごしたので、少しくらい大丈夫だろうとYouTubeを開いたのが23時30分。
案の定心を揺さぶられ、考えずにはいられなくなり、この気持ちを必死こいて残そうと躍起になっている。
どう言葉にして良いのか分からない。
そもそも感情をそのままに言葉にするのは苦手だ。
なので、こいつとは感性が合わないと思った方は、容赦なく読むのを止めてくれて構わない。
内容についての異論は大いに認める。


一番最初に受けた感覚は、水風呂に入った時の内臓。

決して明るい画面ではない。
冷たい感覚を覚えているはずなのに、体の内側が温かい。
早くも遅くもなく、淡々と、流れていくテンポ。
盛り上りや展開が強くもない音。
粘っこくない、でもあっさりしてもいない、さらさらと流れる時間。
砂時計に閉じ込められたみたいた。

ああ、衝動とは遠い、リアルを見つめた、現実と地続きの世界だ。
静かで優しくて、むせ返るほどに湿度の高い世界だ。
V6の生きた世界だ。


その昔、これと似た感覚を覚えたことを思い出した。
ひぐらしのなく頃にという作品の「目明かし編」を初めて読んだ時だ。
ずいぶん昔の話なので、ネタバレとかは気にせず話す。
この話は「鬼隠し編」とセットになった、いわばQ&AのAだ。
小さな村で起こる小さな感情のズレが、疑心が、やがて大きな連続殺人を引き起こす話。
それの殺人者側から描いたのが「目明かし編」だ。
話の筋自体はここではあまり関係ないので、興味ある方はググってね。
(色々あってオタクじゃない人にはハードルが高いけど、きちんと最後まで読めればとても良い話だ。読めれば。)

なにが衝撃って、殺人に至る決定的な出来事が無い。
ただ淡々と、「それこそが運命だ」とでも言うように、物語は惨劇を迎える。


正直V6が、こんなことを仕掛けてくるとは思わなかった。
V6がただ、V6という人生を生きた人間が6人いる。
6人の「個」があって、集まって、ただそこにいる。
そうするのが自然であるかのように、心を体で表し、解放し、踊る。

そこに感情の爆発は感じなかった。
解放、輪廻、昇華、そんな言葉がしっくりくる。
有名な絵画に例えるならば、「最後の晩餐」。
自分の最後を悟ったキリストが、それでも自分への裏切りを許し使途と共に穏やかに食卓に着く様を描いた作品。


始めたからには、最高に生々しく美しく、艶やかに終わらないとね、なんて平然と言われそうな。
ただただ自然な、V6の終わり。

今さら泣いたって叫んだってどうにもならない。
終わるものは終わるのだ。
ただ、それに涙の雨を降らせるのを忌避したりしない。

そんな感覚を抱いた。


エンディングノートなんて言葉が一般的になって久しいが、この曲はV6のエンディングノートだ。

V6に別れを告げ、次のフェーズへ転生するための、ファンへのはなむけの曲。
あの日お祖父ちゃんの棺に入れた、白い菊のような美しい曲。

ファンが別れを受け入れるための、V6ときちんとさよならするための、お葬式というセレモニーだ。



大学1年生の頃、初めて何千人規模のコンサートへ行った日のことを、今でもよく覚えている。
このたくさんの人たちは、全員出演者さんのことが大好きなんだ。
年齢も、生きてきた人生も、趣味も好みも違うこの人たち、みんな同じ人が大好きなんだ。
そう思うと、腹の底がゾクゾクした。
こんなに違う人たちを、同じように魅了できるなんて。




V6も同じだ。
年齢も好みも、趣味も感覚も体格も、何もかも違う6人が、同じV6という船に乗っている。
6人ともV6が大好きで、V6に魅了されて、そして魅了させている。
それをファンが見て、また幸せな気持ちになる。

1995年に出港した船の旅は、たくさんの人を、そして何より乗組員自身を夢中にさせて、2021年に終わりを迎える。

港に着くまであと約3ヶ月。
終わりへのセレモニーは、きっと、まだまだ続く。